医療の現場から『肩関節痛と腱板断裂』(2015.07)

 肩を動かす時に肩から上腕の痛みが出る。夜間痛くて眠れない等の主訴にて来院し、レントゲンを撮ってみたが特に異常はない。たぶん五十肩かな、自然に治るでしょう、と診断してみるも、中々症状が改善しない…。それは腱板断裂による症状かもしれません。

 腱板とは肩を安定して動かすために重要な腱ですが、解剖学的に骨と骨(肩峰と上腕骨頭)に挟まれる構造であること、40代より徐々に腱の老化が進行することにより断裂が起きやすい背景があります。主に40代以上に発生し、60代が発症年齢のピークとなる事から、五十肩(肩関節周囲炎)の発症年齢と重なるため見逃されている場合があります。

 腱板断裂の患者さんは運動時痛・夜間痛を訴えますが、夜間痛で睡眠が取れない事が受診をする一番の理由です。運動時痛は肩を挙上する始めに起き、多くの患者さんは痛みはあるものの挙上は可能です。

 当科では問診や身体所見にて腱板断裂が疑われる場合には、エコーやMRIにより確定診断を行います。

 腱板断裂の治療にはいくつかの方法があり、当科では患者さんの状況を考慮して治療方法を決定します。症状が軽度の場合にはまず保存加療が適応です。保存加療には安静・投薬・関節内注射・リハビリテーションがあり、これらを組み合わせる事により約50%程度の方は痛みが軽快すると言われています。しかし筋力低下は手術加療を行わないと改善しない場合が多いです。

数か月間、保存加療を行っても改善が見られない場合には手術加療をお勧めします。手術加療を勧める場合として

  1. 保存加療が無効である場合
  2. 腱板の断裂範囲が大きい場合
  3. 筋力低下が著しく、日常生活に不便がある場合
  4. 転倒など外傷による急性断裂の場合

が挙げられると思います。

 手術加療には直視下手術と関節鏡視下手術があり、それぞれにメリット・デメリットがある為、当科では患者さんの状態に合わせて手術術式を選択しています。手術は切れた腱板を元の位置(またはその近く)に縫合しますが、手術後はすぐに動かすと手術を行った腱が再度切れてしまうため、約6週間の装具による固定と約2~3か月程度のリハビリ加療が必要です。

 もし肩の痛みが長続きしている患者さんがいらっしゃいましたら、是非お気軽にご紹介下さい。

(JCHO札幌北辰病院 整形外科 松本 大)

< 戻る     次へ >

「医療の現場から」一覧へ戻る