血液疾患の治療は、最近大きく発展しています。なかでもCMLに対する治療は飛躍的に進歩して、まったく治療方針が変わってきました。なんと1日1回から2回の飲み薬で、かなりの患者さんがほぼ治癒のような状態になり、一部の患者さんは、薬自体が不要になるほど安定した病状になることが判ってきています。10年くらい前までは、急性転化しないようにと必死の覚悟で、同種骨髄移植をしておりました。
ご存知、グリベック(イマチニブ)が国内で使用できるようになったのは2001年。この薬剤は、タンパク質リン酸化酵素ablキナーゼを阻害するものです。
CMLにおいて特異的に認められるフィラデルフィア染色体t(9;22)の結果として機能異常に陥ったablキナーゼ(BCR-ABLの融合蛋白になっている)が、この薬で阻害されるだけで、どんどん増殖していた白血病細胞が消滅してしまう。なんと、細胞内のシグナルを一か所のみブロックするだけで、白血病を治すことができるとは大きな驚きでした。
その後、さらに治療は進歩しています。タシグナ(ニロチニブ)が開発され(グリベックよりもさらに特異的にablキナーゼを阻害する)、スプリセル(ダサチニブ)が開発(ablキナーゼ以外に多くのキナーゼをブロードに阻害する)されました。この両者は、グリベックよりもさらに有効性が高いことが判明しており、現在では、この両者のいずれかを用いた治療から開始することが多くなりました。
さらに海外ではボスチニブというabl/srcキナーゼ特異的阻害剤も使用できるようになってきました。この薬剤は、上記した3つの薬剤に耐性になった症例にも効くことが知られており、CMLは、ますます飲み薬でなんとかなりそうです。
薬剤濃度やBCR-ABL mRNAを測定することによって治療効果も容易に予想できるようになり、予後や薬剤中止の可能性まで予測できるようになってきました。
このような画期的治療の進歩の始まりは、筆者がフィラデルフィアに留学中にお会いできたP.Nowell教授(ペンシルバニア大学の病理の教授でしたが数年前に他界されました)の大発見に遡ります。フィラデルフィア染色体は、あまりにも有名なので、はるか昔から知られていたかと思われがちですが、この発見は1960年です。わずか50年で、発見から治療までこんなに進歩するものだと、感慨深いのもがあります。
このように分子生物学を駆使した応用で様々な分野において治療は飛躍的進歩を続けています。我々医療従事者自身もスピード感をもって最新の知識を得ることは勿論、あらゆる面で日々進歩せねばならないと反省する毎日です。
(札幌社会保険総合病院 血液内科 安達正晃)