医療の現場から『ヘリコバクター・ピロリ(H・P)菌』 (2013.03.04)

皆さんはヘリコバクター・ピロリ(H・P)菌というのを御存知ですか。
昨年の当院の職員健診でも希望者に胃がんリスク健診“ABC”健診が試行いたしましたが、ABC健診でピロリ菌感染の可能性が示された方もいらっしゃるのではないでしょうか。

1983年オーストラリアのウォレンとマーシャルにより発見されたピロリ菌は、それまでの胃粘膜病変の考え方をがらりと変えました。当時“胃年齢”という言葉もありましたが、調べてみるとピロリ菌非感染胃粘膜では萎縮性変化はほとんど無く、あってもごく軽度でした。

その後、胃粘膜病変との関係の研究は全世界ですばらしい速さで進み、2000年には胃十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫などの除菌療法が保険適用になっています。しかし、胃癌発生との高い関連性が示されているのにも拘わらず、感染者の最も多い“いわゆる”慢性胃炎は保険適用になっていませんでした。

それがこの度、2013年1月31日に開催された厚生労働省の専門部会が、症状の軽い患者でも除菌で胃炎が改善するとの研究結果を確認、除菌に必要な複数の薬剤の適用範囲を広げることを認め、ヘリコバクター・ピロリ菌感染胃炎の除菌療法がついに保険収載されるとの報道が出ました。最近の1次除菌の成功率は70%程度まで低下していると報告されていますが、2次除菌と合わせると90%近い成功率も報告されており、3次除菌の検討もされています。

わが国の衛生環境では新規感染者は激減しており、除菌成功後の再感染も極めて稀と考えられています。また、ピロリ菌保有者自体も20年程前の報告からかなり減少しています。したがって、除菌療法適応者は基本的にドンドン減っていきますので、最初の数年以外は医療費の増加に与える影響は少ないのです。さらに胃癌の発症が減りますので医療費は劇的に減っていくでしょう。

(札幌社会保険総合病院 副院長(消化器科) 吉田純一)

< 戻る     次へ >

「医療の現場から」一覧へ戻る